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【薄桜鬼】闇色夢綺譚~花綴り~ ※R18

第1章 闇色夢綺譚~花綴り~


【幻、囚われて…。】






「お、今夜は一君かぁ」

遅いじゃんか。
平助は俺に向かって早くと手招きをする。
特に遅れてもいないが一応詫びをいれた。

「しかしよー、何時まで監視を続けるんだぁ?」

腕を頭の後ろに組み、ため息混じりに隣にいた総司に話し掛ける。

「素性も分からないんだから仕方ないんじゃないの?」

もし、新選組に何か合ってからじゃ、遅いしね。

翡翠の瞳が鋭くなり、近藤さんに少しでも危害を加えれば、と総司は己の刀に手を掛ける。

「まぁ…とりあえず、後は任せたよ、一君」

こうして二人の後ろ姿を見送り、監視をする位置へと腰を下ろし、空を見上げた。

俺が監視をする日は決まって月が美しい。

そして、今夜も…。


「また、泣くのだろうか…」



女の名は名前と言った。

あの日、雪が桜の花弁を思わせる夜、雪村千鶴を保護した後に見付けた人物。
淡い紫の着物を身にまとい、全身が雨に降られたかの様に濡れて道に倒れていた所を土方さんが連れ帰った。

見付けた時、俺は女に囚われる事になった。
黄金色に翡翠が混じり合う髪、淡い紫の着物は濡れていても上物だと分かる代物。
そして、身なりに似合わぬ…。
とにかく、全てが幻想的であった。

俺は一瞬にしてこの女に興味を持ち、その綴じられた瞼の下の瞳は何を映すのか、この女の声は何を奏でるか、早く俺に全てを見せて欲しいと思ってしまった。

そう、俺は総司の様に端から疑ってはいない。



女と出逢った時の事を思い返していると女の啜り泣く声がして来た。

声と言っても本当に聞こえる訳ではない。
女の醸し出す雰囲気が泣いているのだ。
それを他の皆に聞くとその様な事はないと、どうやら俺だけが感じるようだ。


俺は障子を少し開け、中の様子を伺うと女は布団の上で膝を抱え蹲っていた。

「おい、どうした…」

眠れないのかと俺は一声掛け、女に近付く。
俺の声に気付き、女は此方を見遣る。

「…っ!」

俺の姿を確認すると、女の美しい翡翠の瞳から一つ、また一つと涙が溢れ落ちる。



俺はこの後、己がした行動が信じられなかった。
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