第8章 放課後のHegira(木兎光太郎)
「今日の放課後、」木兎くんが呼びかけてくる。「暇なの?一緒に食いに行かない?」
「一緒に?」
「返事しなくていいぞ、桐谷」
「桐谷ー、そこをなんとか」
ええー。二人の顔を見比べながら迷っているとキンコンカンコンと予鈴が鳴る。昼休みが終わるまであと5分。次の授業は数学だ。今日は水曜日だから。
「行こうぜ、な?行くよな?」チャイムの音にも負けず、木兎くんの口調は確度を増してくる。尻尾がなくても、目元や頬に分かりやすいほど感情が表れていた。
月曜、火曜、水曜日。
答えて良いものかと一瞬、喉が詰まる私と、海原に吹く追い風のような声。
「行こうよ行こうよ!他の奴なんてどーでもいいじゃん!ね!?」
――劇的なことなんて今さらなくても大丈夫だけど。
「……わかった。行く」私は自分に言い聞かせるように、強く言う。
――いつもと違うこと、起きたらいいな。水曜日。
『放課後のHegira』