第7章 風にそよぐ場所(北信介)
双子に絡まれている北さんに正面から近づいていく。「何の用事だったんですか?」とのぞき込んで訊ねた。
「角名、お前までか…」
「気になるじゃないですか。隠されたら」しかも練習の始まりをすっぽかしてまで。
「いや、別に隠しとるつもりは…」
「あらやだ~」と侑と治が口元を押さえて顔を見合わせた。「やましいことだったんだわ~」「やらしいわ~お年頃だわ~」
「アホ」
柔らかかった北さんの雰囲気が、蛇口をひねるようにキュッと締まった。あぁもうこれ以上は叱られるからダメだ、と悟って俺たちはその場から退散する。スプレーから逃げる虫のように、コートの中へ逃げ込んだ。
「ええやんな別に?幸せなことは共有しても」小声で文句を垂らす侑の隣にしゃがみ込む。足首まで下げてあったサポーターを膝の位置に戻した。途中、体育館の鉄格子ごしに空を仰ぎ見たけれど、暑そうな青空が広がっているだけだった。
『風にそよぐ場所』