第6章 昼はひねもす夜は夜もすがら(宮侑)
休日の朝。起きしなに鳴った電話の相手は顔なじみの幼なじみで、『いや、治が起きんから暇で』とか、『今日何か予定入ってんの?俺はないけど』とか、『とりあえず腹へってんねん』とかの、これといった用件が無いのも相変わらずで、中身のない言葉のやり取りを何回かした後で通話が切られた。
夢うつつで応答していた私は何を喋ったかの記憶をほとんど頭に書き込むことができなかったけれど、最後に聞こえた侑の台詞だけはしっかりと耳に残った。
『じゃあとりあえず、いつものところに集合しようや』
我々にとって “いつものところ”とは、近所のコンビニのことである。
集合しようと言われたら行くしかない。私と侑の2人しかいないのに、「集合」という単語を使うのは些か変なのかもしれないけれど、お互いの家から徒歩2分のコンビニへご飯の調達に行くだけのいつもの用事なので、「待ち合わせ」なんて情緒のある言い方はしなくてよろしい。
観念して私は起き上がり、スマホを充電器から取り外す。ベッドから降り、脱ぎ捨てられているパーカーを掴んで玄関へ行く。ピカピカのミュールやローファーやバレエシューズたちを横目に見ながら、くたくたのスニーカーに足を突っかけた。こつこつバイトをして買った他の靴には申し訳ないけれど、どういう訳か、お洒落でもなんでもないスニーカーをいつも選んでしまう自分がいるのだ。特に予定のない休日は。
「今日も暑くなりそうやなぁ」
快晴の空を仰ぎながら独り言を漏らし、片足立ちでかかとの部分を履き直した。