第5章 レモネードの作り方(赤葦京治)
「簡単だろ。後は飲み頃になるまで、しばらく待つ」
「どのくらい?」
「明日の朝まで」
「嘘でしょ」
あと何時間あると思っているのか。今すぐ飲みたいと主張すると京治は、琴葉、と澄ました顔で私を諭した。
「落ち込みにすぐ効くような鎮静剤なんて本当はロクなものじゃない。時間をかけたほうが、綺麗に治せるものだろ」
私が単純だからなのか、京治が真剣ぶって言うせいなのか。そんなものだろうか、と思えてきてしまうことは沢山あった。この瓶の中の砂糖が全部溶けきってシロップになる頃には、私の今日の悲しみもすっかり消えているのかもしれない、と不思議とそんな気になってくる。
「明日の朝、一緒に飲もう。水で割ったらレモネード、ソーダで割ったらレモンスカッシュ」
「それまで何する?」
「何したい?」
冷蔵庫に背中を預けて、いいよ、と京治は両手を広げた。
「いいよ、愚痴聞く」
ほら、ずるいよね。本当はその言葉がずっと欲しかったんだ。ひとりで膝を抱えていた時からずっと。
「もう聞いてよ!最悪!」なんて吠えて、私は彼の胸に飛び込んでいく。
「京治ィ~!」
「はいはい、京治ですよ」
『レモネードの作り方』