第4章 縦に線(菅原孝支)
好きな少女マンガの主人公は高校生が多いから、自分も16か17になる歳には何か冒険めいたことがこの身に起こるんじゃないかと想像していた。
部活と授業の毎日が、
学校と家との往復が、
まだ見たこともない世界の入り口に繋がっている、と。
本気で信じていたわけじゃない。ただ、心のどこかでは期待していた。
いつか非日常が、揺れる紺色の制服のスカートの前にぽっかりと口を開けるんじゃないかって。
ノートの端の落書きに、体育館の水飲み場に、理科準備室の木棚の影に。
別の世界へ繋がる扉の向こうについて考えていた。それでも誕生日は隔てなく平等だった。16になり、17になり、とうとう18歳を迎える私の高校生活最後の夏は、 タイム・トラベルも爆発も異次元トリップも起こらないまま、台風と共に過ぎ去った。