第2章 秀馬の辛い一日
一月十四日、土曜日の午前七時、枕元の目覚まし時計がけたたましく鳴り響く。アラームを止め、そのままの姿で一階のキッチンに向かおうとして扉を開けた。すると、廊下からいい匂いが部屋に流れてきた。
(ん……?誰だ……この時間は誰も起きてないはず……)
階段を降りてキッチンを見るとそこに居たのは昨夜熱で倒れていたはずの瑠璃だった。
「あ、しゅーまん。おはよー」
「おはよーってそうじゃなくて!どうして瑠璃ちゃんが料理を?」
「いやね、昨日しゅーまんとクロにぃに迷惑かけたからさ、私が代わりに朝食作ってあげようかなって」
「あ、ありがたいけど……」
「ええ子やな瑠璃……」
後から声が聞こえた……変な声が。振り向くと和也がいた。
「人思いのええ子や……」
「お前は親戚のおっさんかよ……」
「おっさんちゃうわ!イケメンなお兄さんの間違いだろ」
「さわにぃうるさい。早く座って」
「すいません」
瑠璃に冷たい視線を向けられ、素直に謝る和也をみて馬鹿馬鹿しく思えてきた
「瑠璃ちゃん……熱と右耳は大丈夫なの?」
「平気平気、そんなに高くなかったし、冷やしてたらすぐ治ったもん」
「いや、まぁそうだけどさ……」
朝早く起きて朝食作るくらいなら大丈夫だとは思うが、どうしても心配してしまう。念のために体温を図るよう言ってみた。しかし
「やだ。それみてしゅーまんまた寝てろって言うじゃん」
「ま、まあそうだけどさ」
「秀馬、本人が元気って言ってるんだからいいんじゃないか?」
そう言ったのは瑠璃の隣で朝食を食べていた芹沢成。昨日は部屋で本を読んでいたせいで部屋から出てこなかったらしい。瑠璃は成のことをせなと呼んでいる。
「そうだよ、せなの言う通りだよ」
「……ならいいけど、今日は弓道の練習はしないこと、いい?」
「今日は練習するつもり無かったから問題ないよ。それよりしゅーまん、今日出かけよ?」
笑いながら俺を見てくる瑠璃。嫌な予感しかしないのは気のせいか……。