第12章 王覧試合
振りかざされた拳は、躊躇なく顔面にめがけて突き出された。
『甘い!』
ヨロけた体勢を直すことなく、そのまま倒れる事を選んだアゲハの二撃目。
身体の柔軟性を最大限に使って彼の足を払うような攻撃を選んだ。
それはヒットし、グラッとリヴァイの肢体もフラつく。
「…お前の負けだ、降参しろ。」
だが、速かったのはリヴァイだった。
完全にアゲハのマウントを取ったのだ。
ここが闘技場でなければ、押し倒されたような状態だ。
『次にやるときは、もっと柔らかいところで頼むよ。』
アゲハはそう言うと自ら降参のポーズをとった。
王覧試合の結果、リヴァイは優勝したがその他の兵はアゲハを含め全員が第二戦で敗退。
人類最強の兵士、なんてリヴァイは言われるようになったが、だからと言って調査兵団そのものには収穫のないものとなってしまった。
それどころか、アゲハに貴族達から私兵として来てくれないかと引き抜きの話が舞い込み始末。
「…疲れちゃうよね、またラブレターが来てる。」
『お断りのお返事をあと何枚書けばいいのやら…。』
王都滞在は今日が最終日。
本当はここでしか手に入らない贅沢品を買いに行ったり、自由な時間を過ごすはずだった。
けれど宿泊している宿に次々に届く招待状にお詫びとお断りの返事を出す作業に追われている。
「噂では、憲兵団のナイルもアゲハを欲しいって言ったらしいじゃない。」
『はぁ?勘弁してよぉ〜。』
そもそも書類仕事が大嫌いな彼女が、ここまでやっているのは貴族達だけは今後の資金稼ぎの為にもおざなりには出来ないと考えているからだ。
「いい話じゃないか。憲兵団に入るなら貴族達も安心して君を私兵に迎えたいなんて考えなくなるぞ。」
『エルヴィンまでそんな…。』
もう嫌だ、とテーブルに突っ伏してしまったアゲハに少し苛めすぎたかな、とエルヴィンはクスクスと笑う。
「悪いがハンジ、ちょっとお使いに出てくれないか?」
「はいはい、程々にしなよー。」
エルヴィンの真意を察したのだろう。ヒラヒラと手を振り部屋を出て行く。
それでもまだ顔を上げないアゲハに、エルヴィンは優しく寄り添い頭を撫で始めた。
「ナイルにはもう誰も譲る気はない、例え君がそう望んだとしても離すつもりはない。」