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名の無い関係

第11章 誰のもの


眼が覚めるとそこは自分のベッドではなかった。
どうやら昨日は、夜中まで雑務に追われそのまま寝落ちしてしまったらしい。
部屋の主人の姿は無いが、カウチで寝てしまった私に掛けられていた毛布からは、彼の匂いがした。
相変わらずの完璧な偽りの紳士だ。いや、策士と言うべきか。
少しでも彼の考えている事を知りたい、理解したい、分かち合いたいなんて思ったのはまだ、自分も青いガキだった頃の話だ。
今は彼の思考に恐怖にも似た感情を抱く事もある。


『同じなのね。』


だから自分は常に彼のそばに居たい。
彼に必要とされる大事な駒の一つでありたい。彼の切り札になれるような強い武器でありたい。
あの日、私は彼に敬礼をした。私の心臓は貴方のものだ、と。
それは恋愛なんて簡単な感情では無い。
私は彼が殺してくれと望めば躊躇なく彼を殺すだろう。
身体を重ねる事もあるが、それは愛情を確認しあう行為では無い。
実際、彼の思い女は他にいる。けれどそんな事はどうでもいいことだ。


『私、ちゃんと出来てる?』


ぎゅっと彼の匂いがする毛布を抱き締める。
きっとこの関係には名前なんてないんだと思う。
それに他人にも理解出来ないものだろう。けれど確かに私達の利害は一致している。


「起きたのか。」

『おはよう、エルヴィン。』


湯気の立つマグカップを二つ手にした彼が顔を出した。
起き上がって出来たスペースに腰を下ろすとその一つを私に差し出す。
ふわりと果実の香りのする褐色のお茶。
まるで愛しいと言うかの様に私の髪にキスをする。


「リヴァイに何を言われたのか気になるが、君なら上手くやれるだろう。」

『そうだね、凄くわかっちゃうからね。』


グイッと抱き寄せられ、大きな彼の手が胸を掴む。
痛みと快感と安心感が広がる。


「忘れるなよ、君のココ(心臓)は私のものだ。」


言い終わるや否や強引に重ねられた唇、容赦なく侵入し、絡め取られる舌。
朝の眩しい光の中で、小鳥の囀りと一緒に聞こえる卑猥な音。
このまま流されてしまうのも悪くはない。
胸を這う彼の手が服をめくり上げ、直に肌に触れて来る。


『ちょ、エルヴィン。ダメ、誰か来ちゃう…。』

「本当は見せつけてやりたいんだが、仕方ないな。」


本気なのか私を喜ばせるリップサービスなのか。チュッと優しいキスを落とし彼はゆっくりと身を引いた。
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