第19章 絶妙な関係
エルヴィンに抱き止められなかったら地面に直撃していただろう。
兵舎に帰還した直後、私は倒れてしまったのだ。
そのまま数日間、私は目を覚まさなかったらしい。
「よかったー!このまま眠り姫だったらどうしようかと思ってたんだから!!」
寝過ぎたせいか、思考も身体の感覚も鈍くぼんやりしていた。
半べそのハンジに抱き着かれ、体を揺さぶられる感覚すらも分厚い何かに包まれた向こう側の出来事のよう。
「まだ寝てなきゃダメ!私、エルヴィン呼んでくる!」
ベッドにまた横にならされる。
しばらくしてドアがノックされた。
『どうぞ。』
「気が付いてよかった。」
肩で息をするエルヴィンの顔がぼんやりと見えた。
『もう会えないかと思ったの。エルヴィンがいなきゃダメ。』
死んでいく部下達を見て初めて感じた恐怖。
当たり前にあった日常が一瞬で壊される。
自分がどれほど無力で、小さな存在なのか。自分では出来ていると思っていた覚悟がどれ程粗末なものだったか思い知らされた。
それと同時に、気が付いてしまった。憧れではなく恋慕だ、と。
「大丈夫だ、私はここにいる。」
『うん。』
「安心しろ、私はそう簡単には死なないさ。」
『うん。』
エルヴィンの大きくて優しい手が頭を撫でてくれる。
その温もりがたまらなく辛かった。
今まで押さえつけていた涙の蓋が一気に開く。
何の為の涙なのかもわからない。
けれど溢れ出したら止まらなくなってしまった。
『私っ、私は弱いね…。』
「いや、君は強いよ。強過ぎるんだ。だからたまには甘えてくれ。」
『エルヴィン。』
「私は君の想いには答えられない、君と恋愛は出来ないが、その真似事なら出来る。」
それで君が少しでも泣く事が減るならば、とエルヴィンは言った。
とても優しい彼のとても酷い言葉は、私の何かを大きく壊した。
「アゲハ、これからは辛い時は私に甘えていい。」
『エルヴィン、ありがとう。』
だけど凄く酷いことを言う。
やっと自分で気が付いたというのに、想いをちゃんと伝える前に拒絶するなんて。けれど彼の手を振り払う事は出来なかった。
だから淋しい夜は私からエルヴィンの部屋に行く。
彼は優しく私を迎え入れてくれる。
それが真似事だと分かっていても、やめられないままズルズルと続いてしまっている。