第4章 転
その日の深夜、皆が寝静まった頃を見計らって、加州清光は行動を開始した。向かうは本丸の庭にある広場。
彼は昼間、長谷部に嘘をついた。
メモ用紙の中身は腐りゆくプリンの心配などでは決してなかった。
実際のメモには暗号の様に走り書きされた英数字の羅列が書かれており、それが何を意味するのか清光はひと目見た時に理解していた。
それは時空制御装置のパスワードだった。
本来ならばこの装置は審神者である主の網膜認証によりロックされている。
しかしただ一度だけ使える、認証情報リセットのパスワードがある事を初期刀の清光は知っていた。なんせ彼は主と共に辞書の様に分厚い取扱説明書を読み解いたのだから。
リセットの手順事態は煩雑だったがパスワードの入力さえ完了すると、後は呆気ないくらい一瞬で主の登録情報は消去された。続いて清光の生体情報を新しく登録していく。
行き先の目盛りを合わせ、管理者権限での認証を行うと、後は開始のボタンを押すだけで過去へ飛ぶ事ができる。
ボタンに手を添え、瞼を閉じて主との思い出を振り返る。本丸はいつでも誰かしらの笑い声が響いていた。
記憶の中で笑う主へ清光は語り掛けた。
(大丈夫。もう失敗しないよ)
「……今度こそ俺が安定を、折る」
スイッチが押し込まれ、加州清光は光に包まれた。