第5章 結
意識を取り戻した加州清光の前に広がっていたのは、満点の星空。続いて視界の端に光を失った制御装置が映る。
(また、殺せなかった……)
悔しさから拳を握り締める。赤く塗られた爪を掌に食い込ませることで自らを罰する。その行為がどれだけ無意味かわかっていても、今は自己を保つ為そうするしかなかった。
(俺のせいで、俺が失敗したせいで……皆の破壊を止められなかった)
しかし自身の行動を省みると、俺達が歴史修正主義者と化してしまうという政府の言い分も正しいような気がしてきた。
立ち上がることもなんだか億劫で、その場から動けずにいた。
どれくらい時が経っただろう。
「こんなとこで何してるの?」
懐かしい声がした。
「やす、さだ……お前、なんでここに?」
すっかり暗闇に慣れた目だ。見間違える筈も無い。
月明かりがぼんやりと輪郭を照らし出すのは、腐れ縁とも言える相方の……大和守安定の姿だった。
「ソレ、こっちの台詞。急に居なくなったと思ったらこんなところで寝てるし」
慌てて上体を起こすと、本丸の大広間には先程まで消えていた筈の灯りが灯っていた。
酒好きの太刀や槍達の笑い声が響く。
少年特有の甲高い叫び声と、ばたばたと可愛らしい足音はきっと短刀達のものだろう。
「夢じゃ……ないの?」
「何寝ぼけた事言ってるの」
事情を知らない安定は呆れたようにそう言うと、清光へ手を差し伸べる。
清光は戸惑いながらも掴まり、立ち上がった。
「そう言えばさっき、主が清光に"おかえり"って言ってたけど。これって一体何の事?」
"おかえり"、その言葉が心を溶かし。ポツリ、ポツリと彼の瞳からは大粒の涙がこぼれ落ち頬を濡らす。
「何で泣くんだよ、気持ち悪いなぁ」
清光は袖でぐりぐりと涙を拭うと、怪訝そうな顔を浮かべ足早で歩き出す安定を追いかけた。