第1章 序
とある冬の日。まだ日も登りきらぬ早朝に事は起きた。
加州清光が同室で眠る大和守安定を斬り付けたのだ。
騒ぎを聞いて駆け付けた他の刀達によって清光はすぐに捕らえられた為、安定の傷は見た目こそ凄惨だが命に別状は無いとの診断だった。
しかしこの事件が奇妙なのは、加害者であるはずの清光には安定に斬り掛かる動機が無かった点にある。
幾ら清光を問い詰めても何故自分がこんな事をしたのかわからないと狼狽えるばかりか、終いには本当に自分がやったのかと言い出す始末で。
その前後不覚の状態に、仲間たちや審神者は頭を痛めた。
結果としては傷の癒えた安定が斬られた事について気にする様子も無く今まで通りに清光に接するものだから、他の刀達も無闇矢鱈に騒ぐ事ができず、【寝起きの加州清光には近づいてはならない】という暗黙の了解を残して事件は風化していった。