第1章 I (can not) see you.(及川徹)
情事のあと、彼女が眠りについてから着信があったのだ。
光太郎からの電話は大抵合コンの誘いなんだけど、今日もやっぱりそうで。
モデルだとかレースクイーンだとか、一体どこでそんなコネ作るんだか、ちなみに今晩の相手はCAらしい。
俺が合コンの誘いを早々に断ったからだろうか。
得意の野性の勘的なそれを働かせた光太郎に「例のセフレといんのか?!」って、ズバリ当てられて今に至る。こいつのこういうとこホントやだ。
でも、まあ、誰かと話していたいっていうのも事実だった。
『──で?』
「……は?」
『は、じゃねえよ。どーすんの。ピル飲ますとかクズいこと言ったら俺マジで友達やめるからな』
言ってくれるじゃん、と思う。
いちいちマジでって言わないと喋れない光太郎のくせに、そもそもいつのまに友達だったんだよ。及川さんお前と友情芽生えさせた覚えなんてこれっぽっちもないよ。
ツッコみどころ満載だけど、悔しいくらいに正論を述べた彼。
明日の練習後にまた『詳しく聞かせてもらうからな!』と脅されて、一方的に通話は終了した。
部屋に戻って、深く溜息。
いい加減覚悟決めよう。
静かな寝息を立てて眠っている彼女を見つめて、そう思う。
明日、目が覚めたら言うんだ。ありったけの想いをこめて、伝えられなかった二文字を。
「 」
彼女を起こさないように、そっと、そっと、唇だけで呟いてみる。
とくん、と胸に、温かさが灯った。
了