第10章 悪あがき
お酒のせいかな。ちょびっと眠そうだった芹奈の目が、一気に大きくなった。俺のために泣いてくれた、うさちゃんみたいな赤い目が目立つ。見事なビックリ顔。なんかこの顔も可愛いな~って。俺はのん気に見つめてた。
やっぱ結構に酔ってたね、俺。自分でも言っちゃったな~って思ったけど…もう遅いし。出ちゃったし。口から外へ。あ、もちろん冗談だよ?でも、半分は…本気。ううん、結構本気かも。だって…
したいじゃん!?好きなコとキスだよ!?そりゃ、そんなもん全力でしたいに決まってんじゃねーかッ!!!
でも、たとえ1回できたとして、それで忘れられるかって言えば―…自信なかったけど。でも忘れるしかないんだもん。どうあがいたって無理なんだから。だったら、最後に、なんか、きっかけっていうか、思い出っていうか…。
「ね。1回だけ。…しても、いい?」
「――」
「…ダメ?」
「――」
たぶん…ていうか、絶対ダメなんだと思う。芹奈の中では。そういうの軽いノリとかでしちゃうタイプじゃないし。それはわかってたんだけど、もう出ちゃったからさ。投げちゃったから、俺。あとは芹奈の答えを待つしかないんだけど…。
「…」
「…」
なんだこれ。意外なくらいに
“沈黙”
…なんですけど?