第9章 先輩と後輩と私
午後四時。だいぶいい時間になった。撮影に行っていたメンツも、社長も外出から帰ってきている。
みちみちに詰め込まれた今日の分の知識は、絶対に取りこぼせない程に重要で、それでいて大量だった。
復習しながらコーヒーを飲んでいると、ふと頭上が陰る。
「御崎君、どうかな?だいぶ慣れてきたかな?」
「社長」
「みんな君の事を気に入ったみたいで、僕もほっとしているよ」
「ありがとうございます、それもこれも全て周りの皆が優しくして下さるからです」
「うんうん、謙虚で美人で可愛くて、その上仕事もキビキビ覚えようとしてくれる。うちの事務所には勿体ない位の逸材だよ」
なんだ、びっくりするくらいの褒め具合。あまりにもむず痒すぎて笑いながら首を横に振る。しかし社長はニコニコ笑顔を崩すことは無い。
「そんな、恐れ多いですよ」
「本当のことなんだから受け止めておくものだよ」
「……ありがとうございます」
褒め上手か……褒められるととてもやる気が出るタイプだから嬉しい。いや、もしかするとそれすら見透かされているのかもしれないけど、それでも嬉しい言葉だ。
「それで、どっちにつきたいかな」
「はい?」
「大和くんとMEZZO"だよ」
「そんな……与えられる仕事はどちらでも文句を言わずにこなしますし、3人ともとても魅力的なので大和くんとMEZZO"のどちらにつきたいかなんて決められませんよ」
「……うんうん、やっぱり君は嬉しい返事をしてくれるね」
なんだろう、社長には一言一句審査されているような感覚でいつもプレッシャーがすごい。ニコニコしながら、その温厚な笑顔の奥では何かを常に測っているようでとてもできた人だ。
「じゃあ、これからは気軽に応えてね。どっちとなら平和的に仕事出来ると思う?」
「平和的、ですか」
「そうそう」
考えた事も無かった。うーん、壮五くんはすごいしっかりしているしとてもマメに仕事をしてくれそうなタイプだけど、環くんは少しハラハラするかも。でも環くんもきちんと伝えたら言うこと聞いてくれるし、素直でいい子だからフォローに回るのも良さそう。……で、大和くんとだと……常にからかわれていて、なんだか落ち着かなくなりそう。平和的で言うなら……
「MEZZO"の2人でしょうか」
大和くんは1人でも大丈夫そうだし。