第8章 Side ~二階堂 大和~
気にしてません、なんて震えた声で強がりを見せるコイツは、なんだか可愛くすらある。
「そりゃ最初は、したさ。でもな、まぁリクが懐きやすいのはともかくとしてだ。ほかの奴らも甘い所抜きにしても懐いてたし、何よりお前さん自身に直接関わった俺も、お前さんから悪意は感じられなかった。まぁ俺の前で完璧にそれを誤魔化しているならある意味賞賛に値するけどな」
俺こそこいつの前でだけじゃなく、色々と隠し事してるくせにな。何偉そうに言ってんだか。
『悪意って……全く知らない相手に悪意もへったくれもないんですが』
ごもっともなんだが……本当にコイツはアイドルとかに興味がなかったんだな……。
『……よくそういう立場になる事は多かったですし、謝らなくても大丈夫です』
声が震えてない……?悟りきったと言うか、冷たいと言うか……吐き捨てるように出てきた言葉には何も感情は見えない。強いて言うなら悲しみや虚しさのようなものくらいか。
『ええ、感情はともかく、事自体には慣れてますから』
どんな育ち方したらこんな可愛く優しい人柄に危さと冷たさを兼ね備えた女性に育つんだよ……ってまぁ、うちのグループもかなり家庭は危ういところがあるから、ある意味類は友を呼ぶ……のか?
なんて冷静に考えていると、八つ当たりだ、と突然反省し出す。こんな時にも相手の気遣いとは恐れ入るな、なんだか逆に申し訳ないんだが……。
と、ここでコイツの罪悪感を簡単に消す一つの方法が思い浮かぶ。
「はは、いいっていいって。なんか嫌な事でも昔あったんだろ?その辺は別にお兄さん無理に聞かないし、今日一日嫌な思いさせてたんだから、当たられてむしろチャラみたいな事にしてくれると嬉しいんだけど」
こういうと向こうの声に明るさが出てきた。
うんうん、女の子は笑ってた方が絶対いいと思うぞ。
そして悪巧みを一つ。
「お近付きの印に敬語なしで〝大和〟って呼び捨てで呼んで」
『懇切丁寧にお断り申し上げます』
「だよなー。でも俺もアイツらと一緒でお前さんと仲良くやっていきたいと思ってるんだぜ?」
『そう言って頂けて光栄です』
「分かっていただけたようで何よりです」
分かってたんだけどな。まー、これくらい茶目っ気ある方が楽しいじゃない?
想像通りの模範解答で、面白いやらちょっと残念やら。男心も複雑だ。