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家事のお姉さんと歌のお兄さんと

第2章 悪意と決別




着替えはすぐに用意できる、と説明を受けながら小鳥遊プロダクションに足を踏み入れる。

あまりジロジロ見るものではない、着替えを借りて返すだけ。
どんどん逆に怖気付いてきた私は、昼間の1件で会社というものへの不審感に苛まれているのかもしれない。嫌だなぁ。

なんて思いながら靴を脱いでスリッパに履き替えた時だった。


「わ、すげー、ちょーコーヒーの匂いすんだけど……って何、コーヒーまみれじゃん!」


偶然居合わせたのか、廊下で水色の髪に猫耳フード付きパーカーを被った男の子に声をかけられた。彼は高校生くらいだろうか、私を大人だと理解してかしてないのかすら分からないような口調で。


「たっ、環くん!!失礼だよ!」
「ごめんなさい、でもこれは私がぶつかって……」


慌てるビジネスマンと女の子。あー、結構最近の子って敬語使えない子いるよなぁ。私は基本的に自分が先輩から嫌な思いさせられてたのもあって、後輩にはフレンドリーに接するようにしてたからあまり気にしていない。


「ごめんなさいね……君、コーヒーは嫌い?」

「何も入ってないのは好きくない。だって、すっげー苦ぇもん。あれ飲めないと大人になれねーなら、俺、大人にならなくていい」


彼の中での大人へのステップアップはどうやらコーヒーを飲めるか飲めないからしい。可愛いじゃないか。慌てる2人をよそに、ほっこりとすらしている。


「環くん、まだ打ち合わせの途中なのに……ってお客さんですか!環くん今度何やらかして……あっ、服!この香りはコーヒー!?もしかして環くん!」

「ちげーよ!俺じゃねー!マネージャー!」


キョロキョロと探しながら出てきた男の子は透き通るような白い髪に、とても綺麗な顔立ちをしている。
のだが、せっかく整っている顔に眉間のシワ。勝手に水色の髪をした男の子のせいじゃないかと勘繰りだし、ぎゃいのぎゃいのと2人で騒ぎ出した。

微笑ましいやら、うちの会社では見なかった光景だなぁと思っていたが、ふと違和感に気付く。

白い髪の男の子は私と歳が近そうだが、水色の髪の子は恐らく高校生で間違いない、と思う。

プロダクション、と書いてあったのは印刷や広告関係ではなく、モデルとかなのかな。なんて呑気に考えていると一悶着も収まったようで、すみません、と女の子がまた謝りながらも客間へと通してくれたのだった。
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