第2章 悪意と決別
「今、着替えをお持ちしますので少々お待ち下さい」
そう言い残した男性……万理さんと呼ばれていた方は違う部屋へと消え、女の子は気を使ってお茶を入れに行ってくれた。
部屋の隅にある観葉植物をじっと見つめ……と言うより慣れない客間にいるむず痒さから観葉植物しか見ていられないくらい緊張していて、なんとも形容し難い。
「今回はうちの娘が本当にすみません」
「!?」
いつの間にか斜め向かいに立っていた男性はとても穏やかな雰囲気を持っていて、その優しそうな顔を困ったように歪めている。さっきの子の父親なのか。わざわざ父親まで事務所に呼び付けるだなんて、この会社は謝罪に対してかなり重きを置いているのかな。逆に恐れ多い。
「あ、いえ、私もちょっと嫌な事があってボーっとしていたので……もう少しちゃんと缶を持っていればよかった事ですので……本当にすみません」
「嫌な事……ですか」
それは聞いて楽になるのならささやかなお詫びとして伺いたいです、と向かいのソファに腰を下ろすと、私の方をじっと見た。
穏やかながらも何か奥を見透かされそうな瞳で、私は特に後ろめたいと思う事も無いのに自己防衛心からか視線を逸らす。
誤魔化す様に開いた口からは、そんな警戒心とは裏腹に昼間の事が溢れ出してしまっていた。弱っていると、ただただ聞いて欲しくなる、なんてよく聞く面倒な女みたいで、迷惑をかけていないだろうか。とか思いつつも、口は止まらない。
時折悔しさや怒りで熱くなる目頭をなんとか堪えながら、結局1通り話し込んでしまった。
女の子のお父さんは黙って私の話を聞き、時折うんうんと頷いたり、むむと唸ったりするくらいで、私もとても話しやすかった。
「そうでしたか……それ社会の闇に飲まれてしまいましたね……さぞや悔しかったでしょう」
「はい……でもいいキッカケだったかもしれません。あんな所にいるより、もっと楽しくてやりがいのある職場を探すプロセスだったと思えば、培ったスキルも今後の為と思えば、まだなんとかやっていけます」
話しながら怒りを思い出し、話し終わる頃には逆に冷静になれていたのは、きっとこの方がとても聞き上手だからなんだろうな、なんて思っていた時だった。
「ならうちで働いてみないかい?君みたいなしっかりした子なら、大歓迎だよ」
突拍子もない言葉に耳を疑った。