第8章 Side ~二階堂 大和~
〝そっかー、お兄さんの専属とかなんか響きいいね〟
俺の専属。こいつに毎日付き人してもらって、車も一緒、仕事も一緒、舞台や撮影袖で演技も見ててもらって、帰っても一緒、飯も作ってもらって……ってこれはほかの奴もだが……そう浮かんで、消えた妄想は酷く満ち足りている気がする。まるで彼女や嫁さんみたいだな、とほかのヤツらの事を言えない位に甘ったれた理想像だ。
俺も大概、と誤魔化してきたが……実際のところ俺が一番コイツを気に入ってる気がする。
他のやつに渡したくない、なんて、付き合っている訳でもないのに嫉妬紛いの感情すら抱いているのは……もう隠しきれないだろう。
はは……俺、今人気沸騰中のアイドルグループのリーダーなのにな……。
仮に俺じゃなくてMEZZO"の専属になったとして、ソウとタマとずっと一緒にいて、しかもまだ会ったばかりだろ?どんどん距離は縮まるだろうし、万が一そのうち2人のどちらか(特にタマがストレート過ぎて危険)と付き合いだしたら……なんて考えたら醜い感情が溢れ出て止まない。
キラキラしてるとこが素敵とかカッコイイとか大人とか。
ファンから本当にたくさん言葉を貰って、俺も成長出来てるんだと、憧れられるようないい男になってるんだなと、自信を持たせてもらってるのに。
そんな本当にたくさんのファンのありがたい言葉で付いた自信が、たった1人の女性の塩対応で揺らぐなんてな……ましてや、監督やベテラン女優とかでもない、会って間もないただの一般女性に、だ。
どうかしてる。
お兄さん、今こんなにもドロドロで醜くて子供だよ。ファンの子達が知らない顔はこんなにも欲に塗れた汚い人間なんだよ。
いや、最初からか……復讐の為に足を踏み入れたようなもんだからな。
アイツは……こんな俺を知ったら嫌いになるかな。元々好感度は一番低そうだけど。
俺はからかい目的でしかない、これは駆け引きのゲームだ。
まだ自覚したくない。
〝まだ決まったわけじゃないですってば〟
そう、まだ決まったわけじゃない。こいつの専属先も、俺の気持ちも。そうだ、俺にとってコイツはいいおもちゃ。ゲームの対象。
認めるのが怖いんだ。
たった半日一緒にだっただけで崩れていく俺が。
コイツに対する感情が。
マネージャーに対する妹のような感情なんかじゃない醜く重いそれが。