第8章 Side ~二階堂 大和~
下ではまだぎゃいぎゃい騒いでいるらしい。今回はお前らの方がミーハーだな。
秋の入口とは言え、風呂上がりの身体にとってまだ少し蒸してる室温は鬱陶しいものがある。
換気をしようと窓を開けて少し身を乗り出し夜空を見上げた。相変わらず淀んだ都会の空では満天の星空なんて夢のまた夢。何を期待して見上げたんだか、と息を漏らした。そんな時、事務所から出てきた誰かの姿を見つける。誰だ?
薄ら暗い夜道、まばらにある街頭の下を歩き始めた女性。今日だけで見慣れた感じがする後ろ姿とサラサラと揺れる髪はまさしくアイツ。
定時20時って言ってなかったか?
不思議に思いつつ時計を見やると8時と45分のあたりを時計の針が進んでいる。
初日から残業か、大変だな。
労いの言葉でもかけてやるか。そう思いながらも、連絡先を手にしたからには早く連絡してみたいと言う本心も見え隠れしていて、お兄さんもまだまだ若いね。
〝お疲れ。定時20時って言ってたのに今出てくるの見えてちょっと驚いたからラビチャした。思ったより長話してたんだな〟
特に文章は気にせず、とりあえず誤字だけ無いか確認して送る。
普通送るの楽しみにしてる系男子ならドキドキしながら返してくれるかな、この文章なら返しやすいかな、とか考えるんだろうけど……特にそう言うのは無い。
と言うのも。
〝今日の感触や今後の事について話してました〟
鳴り響いた着信音と無機質かつ端的な文章がそれを物語る。おそらく本当に律儀なタイプだろうから、返信は来るんだろうなとも思ってたし、内容が業務的なものなら尚更返しやすいタイプだろうなと言うのも分かってたからだ。
ただなー、アイツらに話しかける言葉と俺に対する言葉には差があると言うか、まぁ敬語使い続けてるから尚更なんだろうけど……あー、もしや俺ってばもしかして危険人物認定されてる?
〝へー、明日からはどんな感じ?〟
パパッと打ち込んでさっさと送信、ベッドに転がりながら画面を見る。少しした後に既読が付いて連絡が来た。
〝コンビニ寄って帰るので、家に着いて落ち着いたらまた連絡します〟
ホントに素っ気ないなコイツ。有名人とのラビチャだぞ?普通、わー感動!みたいな雰囲気出しても良いだろ……と思ったけど、そこまで考えてからコイツは本当に芸能関係興味無いんだなと改めて思い知らされた。