第8章 Side ~二階堂 大和~
と言うか、周りが酷く騒いでるせいでより恥ずかしさを掻き立てられているだけだ、大丈夫、俺は別に意識なんてしていない、今回のは事故だ。
漸く少し落ち着いてきた時、いつの間にか夕食で埋まったテーブル越しに俺の被害者が手を鳴らして注意を引く。
「ほらほら、そんなことでいちいち騒がないの。だいたい大和さんは役者なんだからキスの一つや二つした事あるでしょう……私仕事ばかりでテレビ見る余裕なかったから、ドラマとか見てはいなかったんだけど」
なんでこいつアイドルに間接キスされてんのにそんなに冷静なんだよ!いや、こいつ自身が俺の後に飲んでないからか?恥ずかしいの俺だけかよ!くそ!なんて訳の分からない八つ当たりは心に秘め、顔を見たせいで落ち着いたはずの顔が熱を取り戻していく。勘弁してくれ。
「なぁ、ヤマさんこんだけ照れてるのもレアじゃね?写メ写メ」なんて聞こえてきた。コノヤロウ、さっきまでお前も「ずりぃ」とか言ってたと思えば……あっ、くそ、こいつマジで撮りやがった。タマ、お前覚えとけよ。
とりあえず深呼吸をし、コイツの助け舟(内容は完全に間違っているが)に乗っかることにした。はぁ、もう溜息しか出てこねえよ……。
「そーゆーこと。お兄さん、恋愛モノのドラマにも何回も出た事あるし、今更それぐらいの事でピーピー騒ぐなっつーの」
コイツらは別に俺が撮影寸止めなのは知らないだろうし、いつも通りのノリで返すと渋々ながらも食卓を囲んで座る。
……いや、いつも通りのノリだったら、きっと普通に「おーっ、お兄さん役得!ラッキー、羨ましいだろ」位言えてたはずだろうに。
自分で自分の矛盾点に気付いてしまい腑に落ちない気分だが、とりあえずはこの場をやり過ごせたことに胸をなで下ろした。
その後は美味い飯を食いながら考えないよう、咀嚼する事に集中した。割と腹はいっぱいだが、多少顔合わせて会話をしないと意識していると思われそうで無理矢理にでもおかわりを頼む。その行為自体がもう既に意識しているのだが、もうそんなのはどうでもいい。
とりあえず自分を取り戻したかった。
おちょくるのは好きでもおちょくられるのは性に合わない。
ちょっとずれた自分の中の歯車を戻すのには、多少時間がかかりそうだった。