第8章 Side ~二階堂 大和~
俺の様子が面白かったのか、さっきの威圧感など微塵も感じられないような笑顔を浮かべる。
「ふふ……酔いは覚ませそう?オムライス、焼き加減はトロふわがいいですか?堅焼きがいいですか?」
「へっ……あっ、あぁ大丈夫だ、大丈夫。ええと、トロふわかな……」
予想の斜め上だった問いかけに声が裏返ったものの、もう怒ってはいないようなのでひとまず安心してまたお茶を口に運ぶと、静かに溜息を吐く。だいぶ温くなってて飲みやすいそれは、ほんのり苦くて頭が少しスッキリした気がした。
途中でお茶新しいの入れるって申し出があったけど、俺は熱すぎるもんすぐ飲めないから笑って遠慮する。
にしても新人さんは本当にこの仕事向いてそうだな、気配りが本当に行き届いてる。
改めて感心していると、突然のミツの大声に全員が飛び上がりそうな程ビックリした。なんだなんだ虫でも出たか?
そう思ってミツの方を見るも、指差してる先はどう見ても俺。
なんか俺驚く様なことしたか?最後の一口を飲み干そうと喉に流し込んだ瞬間だった。
「それ、さっき御崎が飲んでた湯呑みじゃねーか!」
「ええーーーーー!?」
ぶはっ。
やべぇ器官に入った、噎せる。
いや、そんな事より、これは間接……。
撮影はアングルで誤魔化してるから寸止めだし、彼女とかはまぁいたけど別にそうしたいと思う人は1人もいなかった。そもそも全部受け身だし。挙句告られてOKしたところで俺の性格に合わなくてキスどころか手も繋がなかった人すらいる始末。結論から言うと世間のイメージとは違うだろうが、俺はかなり清い身だ。
これは間接だからセーフだが、少しくらいファーストキスにロマンを求めても悪くは無いだろ?まぁ仕事でそう言うシーンが来たらそこまでだが、だからと言って今日会ったばっかの奴と、って……。
ここまでで6秒程。周りがズルいだのワタシもしたいデスだの返しなさいだの……そもそもお前らのじゃねーだろ。いや、おもちゃ認定は勝手にしてるだけで正確には俺のでもねーんだけどな。
こんだけ騒がれちゃ飲んだ加害者の俺はともかく、飲まれた本人が可哀想だろ……。
とにかくギャーギャー騒いでいる奴らに囲まれて俺は何も言えない、羞恥心とやらかしてしまったと言う罪悪感でもういっぱいだ。顔を覆った掌に感じる熱。きっと今はみっともない程に赤面しているんだと思う。