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家事のお姉さんと歌のお兄さんと

第8章 Side ~二階堂 大和~




小気味いいリズムを刻む包丁と、くつくつと煮込まれている鍋の音、次第に深まっていく優しい和食の香り。
エプロンと三角巾に身を包んで手際よく料理をしているお手伝いさんの後ろ姿を見ると、母親の様な、あるいは別の何かの様な立ち居振る舞いに感じる。

楽しそうに進めている所を見ると、料理は好きなようだ。

今んとこ悪いとこはない……と言うかむしろこの仕事向きだろうな。細かい事とかも得意そうだし。何より、あくせく動きながら料理してる背中を見つつ飯を待ってるのが不思議と苦じゃなかったから、俺自身気付かないうちに警戒心を解いていたんだと思う。

ただ割と常に笑顔だけど、さっきの表情がどこか気になってならない。それも相まってかそれ以外の可愛げや真面目さが浮き彫り立って良さを強調している。
ふともう1度お手伝いさんに目をやると、味噌汁だろうか……味見をしてる姿が見えた。髪を耳にかけ、小皿から少しすすると満足げに微笑む。営業用であろう笑顔よりも穏やかで自然な慈愛すら感じるそれに、少しだけドキッとした。
へぇ、こんな顔もするんだな。
ドキッと言ってもギャップに驚いただけで、別に恋愛の胸の高鳴りじゃない。

そしてものの数十分で出てきた煮物を中心とした和食に驚く。この早さでこの種類、しかも詳しい事は分かんないけど栄養バランスも良さそう。キチンと考えて作ってくれてるんだろうな。
最初に疑ってたのが申し訳ない位にはいい奴なのかも知れない。

とりあえず食おうと思ったが、ちょっと罪悪感を拭い去りたいと言う気持ちと、これから働いてくれるならせっかくなら話とかもちゃんと出来るようになるべきだよなと言う思いで、気楽に接してもらえる様に伝えてみる。


「あー、いや、なんだ、最近歳の近いやつに二階堂さんってあんま呼ばれてなくて違和感あるし、俺も名前で呼んでくんない?と言うかお兄さんにも別にタメ口でいいんだぞ?」

「なるほど……ですが他のみんなは年下でしたので……」

「タメだってあんま変わんないでしょーよ」

「わかりました、わかりましたから」


ヘラヘラした雰囲気から急に真顔に変えてみる。案の定効いた様で、タジタジになりながら受け入れてくれた。ちょっと意地悪が過ぎたかな。


「じゃあさっきのやり直しねー」


俺の言葉に「あー」と呟きながら覚悟を決めたらしい。

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