第7章 長い1日の終わり
「……別に気にしてません」
『ダウト、声ちょっと震えてる』
俳優業もやっているからなのか、些細な変化を見逃してくれない。
私は向こうの考えなんて全くもって分からないのに、こっちの考えが当たり前の様に見通されている事が腹立たしい。本当に同い年かこの人は。
『まぁ話は最後まで聞けって』
「……」
『そりゃ最初は、したさ。でもな、まぁリクが懐きやすいのはともかくとしてだ。ほかの奴らも甘い所抜きにしても懐いてたし、何よりお前さん自身に直接関わった俺も、お前さんから悪意は感じられなかった。まぁ俺の前で完璧にそれを誤魔化しているならある意味賞賛に値するけどな』
最後の一言で自嘲気味に笑うと言葉を切る。私は社会人としてのオンオフは付けてるつもりだけど、そこまで人間的に裏表を激しく出来るほど器用ではない。家庭の都合上、表面取り繕って笑顔を作るのは得意だったが、あまり人を騙す様なことは好きではなかったのだ。そんな事もあり他人からの評価や嫌悪感に怯えながら過ごしていた子供時代のせいで、露骨に嫌われる事に酷く恐怖感を抱く様になった。もはや軽くトラウマと化している。
「悪意って……全く知らない相手に悪意もへったくれもないんですが」
『はは、一応人気アイドルグループとしてはその言い方はちょっと切ないものがあるな。あー、まぁ兎に角だ。警戒し過ぎて嫌な思いさせちまったのは謝るよ、悪かったな』
「……よくそういう立場になる事は多かったですし、謝らなくても大丈夫です」
『……お前さん、それはホントっぽいな?』
「ええ、感情はともかく、事自体には慣れてますから」
自分でも明らかに冷たい声が出てしまったのは、感情やトラウマを押し込めるのに必死だったのもあると思う。でも、それと関係ない大和さんに当たってしまった様でハッとする。
「あっ、ごめんなさい、いえ……その、八つ当たりするつもりじゃなくて!」
『はは、いいっていいって。なんか嫌な事でも昔あったんだろ?その辺は別にお兄さん無理に聞かないし、今日一日嫌な思いさせてたんだから、当たられてむしろチャラみたいな事にしてくれると嬉しいんだけど』
「……ふふ、ありがとうございます」
『あー、それとさ、チャラついでにもう一つ』
急に真面目な声色になった大和さんに緊張する。なにかまずい事でも言ってただろうか……。