第6章 晩御飯と王様プリン
「OH……とても美しいレディがここに来て初めての手料理……ワタシの国でも様々なレディに作ってもらいましたが、アナタのはとても心に染み入りマス……」
「あぁそうだな、美味いし。でも悪いなナギ、コイツの初めては俺がもらったぜ」
「what's!?」
「そこ、誤解招きそうな言い方しないでください」
ちょっと気を抜けばすぐこれだ。どれだけ人をからかって楽しんでいるのだろう。今も注意されてもどこ吹く風、シレッとしながらサラダを口に運んでいた。
「お昼、万理さんに大和さんのご飯を作るよう頼まれたんですよ」
説明すると、初めての手料理が、なんてナギくんはしょげている。
そんなこだわらなくてもいいのに。これから毎日作るんだから。
私もご飯を食べながらそれぞれの反応を楽しむ。
時折飛び出すスープのおかわりを盛りに行ったり来たりはしたものの、皆美味しそうに食べてくれているのがよく分かってとても嬉しかった。
「ルリちゃん、スープおかわり」
「はーい、待っててねー」
「お姉さん、俺もー」
「順番順番」
気持ち的には大所帯の忙しいお母さんって感じ、やりがいはすごくあるし、こんなに職場が楽しいと思ったのは初めてだった。
なにより、家を飛び出してから1人なのは当たり前だったけど、こんなに楽しいと思う食事をしたのは生まれて初めてかもしれない。
子供の頃は張り詰めた空気の中でただ黙々と食べ物を胃に流し込み、時折する会話も世間の見方や私がどういう立場なのか、学校の事を話したとしても友達は選べだのテストで10位以下を取ることは許さないだの、つまらないものばかり。そのせいもあって、給食時間も慎ましく、静かに食べる事も多かった為、友達と楽しんだ記憶なんてなかった。
だから、こんなアットホームな雰囲気の食卓に憧れすらあったのだ。環くんと大和さんのスープを入れている間、一瞬だけ泣きそうになる。昨日で私はだいぶメンタルをやられ、そして今日で過去の理想まで埋めつつある事で気持ちの振れ幅が大きくなり、少し気持ち的に追い付いていない感じがした。
「ルリちゃん?なした?もう無い?」
「ううん大丈夫だよ、今もってくね!」
振り返ると悲しそうに眉を下げながら環くんが聞いてくる。いけないいけない、今はお仕事、ビジネスに浸った人間たるものキチンと気持ち切り替えなくちゃ。