第6章 晩御飯と王様プリン
とりあえず食卓を皿で埋めつつ、お茶はひっそりと回収する。
中身をどうしようと思ったけど、幸か不幸か、湯呑みの中は空っぽになっていた。
なんだか私のせいではないにも関わらず、アイドルに申し訳ない事をしてしまった気分。世の中の大和さん推しのファンの方々、ごめんなさい。大和さん推しでもなんでもないただの家政婦的なヤツが間接キスさせてしまいました。
まぁでも大和さん自身は大したことしては捉えてないだろうし、私だけがちょっと気まずさを感じてるのも癪だから「間接キス?それがどうしたの?」みたいな感じで行こう。
最後のお皿をテーブルに置いて、とりあえず未だにぎゃいぎゃい騒いでる皆をなんとかしなくちゃ。
「ほらほら、そんなことでいちいち騒がないの。だいたい大和さんは役者なんだからキスの一つや二つした事あるでしょう……私仕事ばかりでテレビ見る余裕なかったから、ドラマとか見てはいなかったんだけど」
パンパン、と手を打ち合わせて乾いた音を鳴らせば全員がこちらに注目する。その中心にいる大和さんは大きな手のひらで口と鼻あたりを中心に自分の顔の半分以上を覆っているが、見えている部分は驚く程に赤い。えっ、嘘、それは何、シャイな反応なの?それとも残ってたアルコールのせいなの?
予想外の大和さんに口をぽかんと開けてしまったが、そんな私の小馬鹿にした(もちろんそんなつもりは無い)反応がちょっと気に入らなかったのだろうか、それとも騒ぎから解放された疲労からなのか、ため息を吐いた。
「そーゆーこと。お兄さん、恋愛モノのドラマにも何回も出た事あるし、今更それぐらいの事でピーピー騒ぐなっつーの」
まだうっすらと赤い顔とは別にシレッとした反応が返ってくる。やっぱり人気役者は場数をこなしてるんだなー、アイドルのお仕事も大変そうだなーなんてのんきな考えをしつつ、そう言うのを嫌がる事なくキチンとこなせる辺り仕事に真面目なのだろう。私なら結構躊躇ってしまいそうだもの。そういう点で、ちょっと大和さんの株が上がる。私はやはりどこまでも仕事人間なのだろうな。
まーそれもそうかーと言いながら、つまらなさそうではあるが全員がようやく席についてくれた。
しかし今思えば一織くんまで騒ぎに参加していたのは少し予想外かも。ウブなお年頃なのかしら。