第5章 はじめてのおつかい
チラチラと王様プリンを見ている彼は、まるでエサを前にした子犬と全く同じ。
「四葉くんが気楽だって言うなら普通の話し方にしようか?」
「うん……なー、りっくんはなんて呼ばれてんの?」
「オレ?オレは陸くんだけど」
突然話を振られた陸くんはきょとんとしながら四葉くんに答える。
「じゃあ俺も名前がいい」
「環くん」
「うす」
仲間意識かな?なんだか本当に子犬のようで、名前で呼んであげると満足げに頷いた、なんて可愛い生き物だろう。
ブンブン振り回される尻尾が見えるような気がして、くすくすと笑いが込み上げてきた。
「なー」
「で!王様プリン!」
大和さんが何か言いかけたが、耐え切れなくなったのか環くんが目を輝かせながら私に飛び付いてくる。と言うか私の持ってる王様プリンに。
「だーめ、これは晩御飯の後のデザート!」
「むー。じゃあ俺バンちゃんのとこ行ってくる」
私が王様プリンを背後に隠すと、途端にしょげてしまう。そんな環くんを見ながらスケジュールを思い出し、時間を逆算する。まぁ今から着替えて少しのんびりしても間に合いそうだ、急かすほど焦る時間でもない。
「そう言えば今日はこれからモデルの仕事入ってるんだっけ?晩御飯美味しいの頑張って作るから、楽しみにしててね」
「え、何、アンタ作んの?」
さっきよりもちょっと明るい顔で目をぱちくりさせる。
「そうだよ、腕によりをかけて作るからお仕事頑張って行ってらっしゃい!」
「ウマイのよろしく」
グッと親指を立てて返すと、環くんもグッと親指を立てて着替えに行った。
「最近丸くなったとは言え、御崎さん環の扱い上手だね!あいつあんまり人に懐かないんだけど」
「そうなの?」
環くんは子供っぽいとこあるけど、素直ないい子だと思う。でも昔がどんな風だったかはわからない。それでも成長してきたのはこのグループに居たからなんじゃないかなぁ、なんて勝手に思っていると、ふと大和さんが「なー」と言っていたことを思い出す。
「そう言えば大和さん、さっき何か言いかけませんでした?」
「ん?あー……いや、んな事より早く片付けないと冷凍物溶けんぞー、って」
「あっ、やばい!」
「陸くんお肉取って!」
大和さんに言われ、届いた荷物に入ってた冷凍物を慌てて片付け始めた。