第5章 はじめてのおつかい
「そう言えば、陸くんももう少ししたら出発だよね?」
ふと環くんのスケジュールを思い出した時に前後にあった名前が陸くんだった事に気付き、聞いてみる。
「あっ、そうだった!」
「ふふ、お手伝いありがとうね。そろそろ準備した方がいい時間だと思うし、あとは私が片付けるから、気にせずお仕事行ってらっしゃい?」
「うん、ありがとう!行ってきます!」
まだ制服のままだった陸くんは慌てて飛び出すと部屋へと急ぎ足で戻って行く。その姿を微笑ましい気持ちで見送ると、残りの食材を冷蔵庫へと収納した。
そろそろ夕食を作り始めよう。
ふと気付くと大和さんはどこから持ってきたのか冷えたビールを開け、それはそれは美味しそうに喉を鳴らしながら飲み始めている。
時間はもう16時30分。まあ、なんだかんだ言いながら休みなのに案内とかお手伝いとかまでしてもらっちゃったしなぁ、特に咎める事もない、むしろきちんとお礼を言っていない事に気付いた。
勝手に苦手意識持ってたけど、ちょっと改めなくちゃいけないかなぁ。表向き面倒がって放任っぽく振舞ってても、やはりグループ内では最年長らしく面倒見がいいようだ。私をからかってくるのも、きっと彼なりに私が打ち解けられるよう気を使ってくれている……のだろう。やはりおもちゃ扱いされているような感じも否定しきれないけど。
まぁでもアレコレ助けてもらったのは本当の事なんだし、ちょっとお礼しようかな。
夕食の準備をしながら、隙間を見ておつまみを作る。
と言っても、あまり遅いと飲みきってしまいそうなので、解凍した冷凍食品の枝豆と輪切りイカを焼いただけのものにマヨネーズと一味唐辛子を添え、大和さんの前に置く。
「おっ、うまそー。え、何?俺にくれんの?」
「今日のお礼です。せっかくのお休みなのにわざわざ案内して頂いたり、お散歩の途中なのにお買い物の荷物運んで下さったり、色々とありがとうございました」
「元々はナギに早起きさせられたせいだし、どうせ暇だったから気にしなくてよかったんだが……いや、でも晩酌がちょっと豪勢になったし、いい事はしてみるもんだな」
ツマミも出てきてビールが進んで上機嫌なのか、ほんの少し赤ら顔でにへらと笑みを浮かべた大和さんに、夕食前なので程々にしてくださいね、と釘を刺して料理へと戻るのだった。