第5章 はじめてのおつかい
「そうだ、今日の晩御飯は御崎さんが作ってくれるの?」
「うん、そうだよ、今日から昼と夜、寮にいる時の炊事洗濯お掃除はおまかせあれ!軽く何にしようかなとかは考えてあるけど、持ってくれてるお礼も兼ねて希望あったらそれ作るよ?」
真っ赤な指を忘れるように、会話を楽しんだ。
私の提案にやった、と目を輝かせて喜ぶ陸くんを見ていると微笑ましい気分になる。
「じゃあオムライスがいいな!オレ、母さんの作るオムライスが好きで、でも最近食べてないから懐かしくなっちゃった」
「全く同じ味には出来ないと思うけどそれでも大丈夫かな?」
家庭の味の再現って結構難しいと思うんだよね。個別に好み聞いてみるかな。
「うん!……あ、でもこれじゃあオレの罪滅ぼしには……」
「いいっていいって!今日の晩御飯はオムライスにするね」
「ありがとう……なんかこういうのって本当にお母さんとか奥さんみたいでいいね!……って、あっいやその!そういう意味じゃなくて!!」
急に赤くなってあたふたとしだす陸くん。本当に可愛い。
きっとおもむろに出た言葉の意味を反芻して恥ずかしくなったんだろうな。
「ふふ、まぁみんなのお母さんだと思っていいからね」
「んじゃ、歳的に俺がお父さんかな」
聞こえたのは陸くんよりも低い声。聞こえた位置は私と陸くんの間のちょっと上あたり。マスクと深く被ったパーカーで一瞬誰か分からなかったけど、今日はよく見たメガネ越しの三白眼は間違いなく難関その1である。
「やっ……!?」
「えっ、寝てたはずじゃ!?」
陸くんと私の声が被る。陸くんは名前を叫びそうになるのをぐっと堪えて小声で大和さん、と言い直した。
「散歩だよ散歩。変なタイミングで起きて飯食ったから、昼寝も浅かったわけ。あーあー、こんなに指真っ赤にしちゃって、鬱血し過ぎると指壊死するぞー。初日から無理すんなっての」
「えっ……ホントだ、気付かなくてごめん!」
私がバレないように必死に装っていた平穏を一瞬で見破る。お兄さんポジションなだけあって本当に面倒見がいいらしい。大和さんは当たり前のように私から買い物袋を2つ奪うと、置いてくぞーと先に行ってしまう。
「えっ、あのスミマセン……」
時間も守らず自己管理も出来ていないとか社会人失格だ……。