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家事のお姉さんと歌のお兄さんと

第4章 挨拶回りと初仕事




「……で、ここが俺の部屋。入ったらケモノに噛み付かれるから注意してねー」

「動物飼っているんですか?」


そう言えば事務所にいたうさぎは誰のペットだろう、とても可愛かった。二階堂さんのペットはなんだろう、犬かな。


「いや、冗談。ほらあれだな、男は誰しも心はケモノだと言う例え的なやつ」

「あぁ、なるほど。では紡ちゃんにも伝えておきますね」

「冗談だから勘弁してくれ、俺の品位が下がっちまうだろー」

「ご自分から品位を下げることおっしゃったくせに」


歳が同じせいか、ノリが近いせいか、どうも憎まれ口の叩きあいみたいになる。ニヤニヤしている二階堂さんから察するに、きっと新しいおもちゃを見つけました、みたいな感覚なんだろう。
やはりこの会社の壁は彼のようだ。負けるものか。


「噛み付かれたなら報告した上で猛犬注意のステッカーを扉に貼りますんで」

「んなことしないよー、お兄さん人畜無害で有名」

「そんなバレバレの嘘つく吐くなよ、大和さんほど毒のある人間そうそういないだろ!」


そう言いながら開いた扉から出てくる三月くん。ジャケットを羽織って打ち合わせに向かう準備は整ったようだ。
二階堂さんに負けじとニヤニヤしながらツッコミを入れている。


「ミツがバラさなかったらちゃーんと言いくるめられたのに」

「言いくるめるって時点であくどいんだよ!」


まるでテレビでよくあるコントのようなアップテンポな流れの会話。彼等にとってはこれも日常なのだろうか、見ていてとても面白い。


「ふふ……そう言えば三月くん、スケジュール確認しておいたんだけどちょっと早くない?」


朝の時点でスケジュール帳をチラリと見ていたが、三月くんの打ち合わせ予定は午前11時30分。ここから車で15分のオフィス街のビルで帽子専門店とコラボ宣伝の打ち合わせがある事は把握済み。しかし、今は10時30分。移動の時間や多少の挨拶を踏まえてみても早いことは明確だった。


「ん?あぁ、ちょっと早めに行ってしなきゃいけない準備があるんだ。普段はやらないんだけど、今回はちょっと大掛かりな宣伝になりそうだからって話らしい」

「そうなんだ!気をつけて行ってらっしゃい」

「おう!行ってきまーす!」


なんだか弟ができたみたいで可愛いなぁ。
……弟。弟がいたら、私も辛い思いしなくて済んだのかな。

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