第3章 社長とアイドルと就職先
あー、恥ずかしさもそりゃ当然あるんだけだけども。それ以上にドアの前で呪文のように謝罪文を並べている男の子、とてもウブなんだろう、ちょっとおかしくて笑ってしまった。
そもそも家が近いのに着替えさせてもらおうと甘えてきたのはこっちだ。確かにぶつかってきたのは女の子だったけど、しっかり持ってなかった私も悪いし。
きちんと服を着て扉を開けた私は、目の前で口をパクパクさせている男の子に笑いかけた。
「ごめんね、あなた達の更衣室だったのに使わせてもらった私が悪いから、気にしないで?」
今日何回目かの気にしないでを男の子に投げ掛けるも、男の子は目を合わせて謝らなきゃいけない反面、目を見たら……まぁ思い出すんだろうな、慌てて逸らすという見事な挙動不審っぷり。
「あっ、でも、その、知らなくて……えっと……あの見てな!!!……くは無いんですけど、あの!そそそそんなやましい気持ちとかじゃなく!!!」
「陸さん……?」
「ひっ!!マネージャー??!!」
バタバタと忙しなく説明に励む男の子に、後ろから女の子が声をかけると、飛び上がるんじゃないかと言うくらいには驚いていた。
「ごめんなさい、陸さんの着替えのタイミングでしたよね……もしかして」
「扉を開けたら男の子がいるからびっくりしちゃった、でもすれ違いでよかった。使わせてもらってごめんね、はいどうぞ」
私が何事もなかったかのようににっこり笑うと目をぱちくりさせる男の子。出来事を知らない女の子はよかった、と胸を撫で下ろしていた。
自分がコーヒーかけちゃった相手に気を効かせてくれようとしたのに、更に半裸を晒させてしまったなんて知れたら女の子はまた気落ちしちゃうだろうし、男の子もなんか可哀想だったから、あれは私の中で何も無かったこととして清算することにした。うん、これが多分一番平和だ。
「そ、それじゃあ失礼します!」
男の子は逃げるように更衣室に入り込むとバタバタと音を立てて着替え始めた。テンパってるのかな。ちょっと可愛い。
「お父さ……社長が、説明は万理さんがしてくれると言っていたので、客間でお話があると思います」
そう、着替えよりもなんだかこちらがメインとなってきたがどんな仕事なんだろう、と少しドキドキしている。
客間までの間にお互い軽く自己紹介はしておいた。呼びにくいと困るからね。