第3章 社長とアイドルと就職先
突然口調が変わった男性は、先程よりもやや子供っぽい表情を浮かべ、うちはやりがいがあるよ、なんて言っている。
そもそもうち、とはどこなのか。聞こうと思ったけどその必要は無くなった。
「お父さん!」
「社長!?」
社長。
「社長?」
「あー、うん。名乗り忘れていたね。私はこの会社の社長、小鳥遊音晴と言います。娘の失敗で申し訳ない思いをさせてしまったお詫びではなく、お手伝いさんとしてスカウトしたいと思ったんだよ」
やばいなんか大変な事になってきた。でも一刻も早く職を見付けたい私としては願ったり叶ったりなのだが。
やはりどんなに目の前に餌をぶらさげられたとしても内容は気になるもので。
「就職先は本当に探していて、やれる事なら出来ればやりたいのですが、どのような業務内容でしょうか?」
「あの……ごめんなさい、お話の途中なんですが……風邪ひいてしまいますので、そろそろ着替えられた方が……」
女の子が申し訳なさそうに会話に入ってくる。その手には万理さんと呼ばれていた方から受け取った着替え1式(不幸中の幸い、下着にまでは染みていなかった為、シンプルなカットソーとロングスカートの上下のみで済んだ)。
「あ……それもそうですね、更衣室で着替えてからまたここにおいで。紡君、更衣室まで案内してあげて」
「はい、社長」
業務モードに入った女の子は、社長、と呼んだ父親ににっこりと笑顔を見せると、私を更衣室へと案内してくれた。
「お茶菓子忘れたので給湯室から持ってきますね!」
「あっ、あの、そこまで気を遣わなくていいんだけど……」
「大丈夫です!ここの雰囲気がいい事を知ってもらえたら、お仕事引き受けて頂けないかなと思いまして……ではすぐ戻りますんで着替えていてくださいね!」
そんなに働き手が足りてないのだろうか、と思いながらも更衣室で着替える。
軽くタオルでスーツを吹きながら渡された紙袋にしまうと、ロングスカートとカットソーを取り出した。その時、軽快な足音の後に扉が開く音がした。
「あ、お茶菓子ほんとに気にしなくて……いい……の」
バン!
に、まで言い切る前に赤い髪をした男の子と目が合って一瞬で扉を閉められた。
「ごめんなさい!!!」
扉越しに、悲鳴にも近い声が聞こえる。
え、見られた。下着姿。まじか。