第13章 ことのは(高遠丞)
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コンコンコン、とノック音が聞こえた。
まだ着替えの途中で出られない。
「どちら様ですか?」
「監督、俺だ、丞だ」
心臓がドクンと脈打った。
正直、今一番会いたくなかった人だ。
唾液を飲み、平然を装ってドア越しに声をかける。
「ど、どうしたんですか?」
「いや、何となく気になって。中入ってもいいか?」
「今、着替え中なので…」
「………そうか、じゃあ後でな」
丞さんが歩いて去っていくのを感じとり、大きな溜息が出た。
心配してきてくれたんだよね?
我ながら自惚れてしまう。
着替えて談話室に行くと、丞さんはいなかった。
私がきょろきょろしていると紬さんに声をかけられた。
「監督、おはようございます。どうしたんですか?」
「おはようございます。丞さん…どこかなって…」
「あー…丞だったら何か買いに行きましたよ。場所は分かりませんけど」
うーん、と唸っている紬さん。
付き合っても優しそうだな、なんて変な事を考えてしまう。
「……!監督、あんまり見つめないでください!恥ずかしい!」
「っあ、ごめんなさい。ボーッとしてました」
「……丞と何かあったんですか?」
「えーっと、私が勝手に思ってるだけというか…」
「バルコニーに行きますか?ここより話しやすいでしょ」
「いいんですか?」
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