第16章 人は見かけによらない(皆木綴)
.
ガタっと後ろから物が落ちた音が聞こえた。
びっくりして、綴くんの頭の上にあった手を引っ込め後ろを振り向いた。
「あ、真澄くん」
「ねえ、なんで綴、監督に撫でられてんの…」
「見間違いじゃないか?監督が俺にそんな事するはずないだろ?ですよね、監督?」
「絶対見間違いじゃない、監督が手を引っ込めるの見た」
「ああ、今さっき今回の脚本の最後見てもらったんだ。俺の渡し方がちょっと雑だったみたいで、監督落としそうになってましたもんね」
スラスラと、先ほどのシチュエーションは無かったことになっていく。
演技力もさる事ながら、無かった事がある事になっていくその様子には少し感心して見ていた。
真澄くんは結局疑いながらもそれ以上は追求せず、自分の部屋に戻っていった。
綴くんはと言うと、
「今日…監督の部屋で寝てもいいすか?」
「ダメです!公演もあるし、綴くんも疲れてるでし「イヤ?」」
.