第1章 好きだから-罠-
初めは別に『先生』なんて、何とも思ってなかった。
別に誰でも良い。
嫌な奴じゃなければ、誰でも良いし、どうでも良い。
そう思ってた。
いつの間にか…どうしても、あの人を欲しいと思うようになるまでは……。
「佐奈ちゃん、ただいまー!」
あくまで明るく、でもそれ以上に甘えるように、今日も元気にバイトから帰宅する。
そこは数ヶ月前から先生と暮らしているマンションだ。
声と同時に中に駆け込めば、そこには、いつもじゃないけど、先生…佐奈ちゃんがいる。
本当はいつもいて欲しいけど、佐奈ちゃんにも仕事があるからしょうがない。
そして今日は……。
「あ、おかえり、瑠衣。お疲れ様」
今日は佐奈ちゃんがいる。
だって今日は日曜だしね…って、僕は残念ながらバイトだったから一緒にいる時間が減っちゃったけど。
その分も取り返さなくちゃね。
僕はたたた、と佐奈ちゃんの前に滑り込んだ。
「うん!僕頑張ってきたよ!佐奈ちゃんが傍にいてくれたら、もっと頑張れちゃうんだけどなー」
佐奈ちゃんに会いたかったよって甘えると、佐奈ちゃんはしょうがないなあ、って笑いながら頭を撫でてくれる。
それはもう、いつもの決まり事。
いつもの触れ合い。
すりすり、と佐奈ちゃんに抱きつくみたいにしながら頬ずりすれば、応えるようにもっとたくさん頭を撫でてくれた。
でもね、佐奈ちゃん。
僕はもう…これだけじゃ足りないんだ。
でも、焦りは禁物。
何故って。
「またかよ」
ちっ、と舌打ち交じりに現われたのは、僕と同じ佐奈ちゃんの生徒の一人、元犬の厳(いつき)。
これだけでも邪魔なのに、
「よく毎日飽きないですね」
言葉遣いは丁寧だけど、嫌味たっぷりな言い回しをするのは更にもう一人の生徒、元狼の煉だ。
ちなみに順番は、煉(れん)が一人目、厳が二人目で。
つまり僕は佐奈にとっては三人目の生徒。