第1章 I met you, and I changed.
『ねえ。 お兄さん…
お兄さんってば。 このケーキ
ワンカットください。』
その彼は俺の腕をつかんで軽く
ぶんぶんと揺さぶって上目遣いで
俺に言っている。
『え… ああ…。
これは……』
『あ~っ。 もしかして、
俺がお金持ってないとか思ってる?
こうみえて俺、結構稼いでるんだよ。』
口ごもった俺に彼はかぶせ気味に言った。
『あ… いや。 そうじゃなくて。
これは、売り物じゃないんだ。』
俺がそういうと彼は、
本当にガッカリした様子 でまた
チョコレートケーキを食い入るように見つめる。
『…そうなんですか。 …じゃあ
また買いにきます。 だってこれ絶対食べたいですもん。』
そう言って彼は顔をクシャっとさせて笑った。