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白雪の燈

第1章 嚆矢


その日の夜遅く、国境にほど近い山岳地帯でとある魔法が発動した。それは術者の生命と引き換えに発動する強力な結界魔法で、魔法王国ハクラシローメでも使える者は限られている禁術の一つである。強力な結界魔法であるがゆえに、それは発動した術者よりも魔力の強い者でなければ気づくことが出来ない。術者が相当な魔力の持主だったからか、それとも戦争が終結して間もない混乱期だったからか、それは誰にも気づかれなかった。たった一人を除いて。



その男は、世界一の魔法使いと呼ばれていた。
元はハクラシローメの第二王位継承者であったが、兄が王位を継ぐ少し前に王族の籍から離れ国境付近の山岳地帯に隠棲していた。初老の使用人夫婦が身の周りの世話をしていたが、1日のほとんどを部屋に篭って魔法の研究に費やす、そんな男である。そんな男がある日、近所で強力な結界魔法が発動するのを感じた。それも禁術ともなれば気にならずにはいられない。就寝中の使用人夫婦を起こさぬように家を出ると、移動魔法で禁術の発動場所へと向かう。はたして、その場所には相当な結界が張られていた。敵意、害意のある者は近寄ることすら出来ない強力な結界。だが男にとってはただの結界である。開呪の方法なぞ心得たものなので、あっという間に開呪してしまった。

結界の中心には女がいた。既に事切れているその女は、腕に何かを抱いていた。どうやらそれが女の守りたかったものらしい。男は鎮魂の祈りの言葉を小さく唱え、女の腕から取り出そうとブランケットに包まれたそれに手を伸ばす。すると包みが身動ぎした。かすかに泣き声も聞こえてくる。良く良く見ると、ブランケットに包まれた赤子が弱々しく泣き声を上げていた。
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