第7章 洒涙雨
「「えーと」」
二人して固まる時間が数秒。
どうやらお互いがお互いに何が起こったのかわからないとでもいいたげで、抱きついている私は頭が噴火しそうだ。
「その、あの、嬉しいけど、あれ、うん俺も男だからね、いつもなら動揺なんてしないけど、心の準備ってのがあるわけでその」
心臓の音が嫌に響いてうるさい。とにかく何か言わなきゃと思って口を開く。
「口笛」
その一言と共に、私の手に彼の手がそっと重なる。
「吹いてた...けど」
優しい声だった。
あの日聴いた声とは違っていたけれど、トーンもあの日よりももっともっと優しかったけれど、彼に間違えなかった。
「貴方の口笛、とても綺麗で立ち止まりました」
あの日言えなかった言葉をそのまま口にする。
そしたら、何故かポタリと私から涙があふれだす。
「雨、止みませんね?」
彼の背に顔を埋めて、私はくぐもった声を出した。
すると彼はこう答えた。
「雨は止んでますよ?」
その問いに私ははぁっとため息をつく、精一杯伝えたつもりだっけど今どきこんな伝え方じゃ伝わらないかなんて反省した。
「あぁでも、雨は止んでしまったけれど、虹は綺麗ですね」
手を取ったまま、くるりとこちらに振り返った彼の顔は笑っていた。
「俺が知らないって思った?」
そっと涙を温かい手が攫っていく。
ニカッと笑う顔は、初めて見た夕日よりも眩しくて輝いていた。
「ほら、そう言ったら本当に出てきた」
彼の指を指す方角を見れば、七色にかかる虹が見えた。あぁ、あの時の本に書かれていた雨には色があるというのは、こういう事だったんだと思い出す。
「な?」
そう言ってまたニカッと笑う彼に、私も問いかける。
虹が綺麗ですね...?
ーーendーー