第4章 怪雨
ふわりと頬に柔らかい感触がした。
それは突然の事で俺はびっくり仰天する。ちょっと目ん玉飛び出でるかと思った。
「桃色」
雨音の中で静かに響く声が、鼓膜を通り抜ける。桃色とは何のことだろうなんてぼうっと考えていれば、ああと何かを察したのか女の子は言葉を紡ぐ。
「肌の色は、桃色。見えてないけど、見えてます」
その言葉に心が揺れ動く。真っ直ぐで、芯の通った声。上手く言葉にできないんだけど、なにかに似ている。なんだっけな...。
頬に当てられた手が冷たくてとても気持ちいい。赤くなる顔は鏡を見てなくてもわかる。不謹慎の連続だけど、この子に顔見られてなくて本当によかった。やべーこれって多分、一目惚れってやつ。ドクンドクン脈打つ胸は、明らかに正常じゃない。
「ごめん、ちゃんと見えてるね」
そっと手を取れば微笑まれて、こんな一瞬で人は恋に落ちることってあるんだって思った。俺なんか普通にナンパできちゃう側の人だから、一目惚れとか日常茶飯事みたいなもんなんだけどな。でもここまで心臓を、ぎゅうっと掴まれたような感覚は初めてで自分でもビックリだ。
「お礼って何してくれる?あっ、なんだったらそこのホ...」
そう言った瞬間、グーって自分の腹の音が鳴る。そういや朝飯もまだだったっけ。パチンコの新台の事で頭いっぱいだったもんだから、忘れてた。普段ならお腹の音とか気にしないけど、視線を少しづつ女の子に向けて様子をうかがう。いい雰囲気っぽい感じだったのに、タイミングが悪すぎる。
「あの、私お腹空いてまして、よかったらお昼をご馳走させてくれませんか?」
なにその気遣いできる回答。一目惚れが普通に大好きになりそうなんだけど、って俺はチョロシコスキーかよって話しだ。サラサラの長い髪がジメッとした空気の中を軽やかに流れる。
「い、いかがでしょう?」
しどろもどろになりながら、その子は首を傾ける。本当に今日人助けしてよかったと心から思った。