第1章 天泣
「おーい松野!これ3番テーブルな!」
先輩が俺を呼ぶ声にくるりと振り向く。
「わかりましたー。あっ、7番テーブル追加でカフェオレ1つ」
木目調のテーブルや椅子、少し重々しい雰囲気の喫茶店。だけど、中身は全然そんなことなくて働いてる人は皆、気さくないい人ばかりだ。
ニートだった俺が働くとか快挙でしかない?
まぁ、そうだよな。
「カフェオレはホット?それともアイス?」
「あっ、ホットっす、ホットホット」
笑いながらそう言えば、わかった出しとくと笑い返してくれる先輩。
洒落たジャズ音楽が流れる店内は、俺とは正反対で最初はむず痒い気持ちだった。
まぁ、今は慣れたけどね。
「お待たせいたしました、こちらホットコーヒーとショートケーキでございます」
3番テーブルに注文の品を持っていく、ショートケーキの赤い苺がツヤツヤとしていて俺が働く姿をうつす。
「ご注文は以上でよろしいですか?」
ニコリと微笑めば、ええっとお客さんから返事が帰ってくる。
そのお客さんは年配の方で、ここでよく苺のショートケーキを注文する。
ついこの間まで、白髪が目立っていたのに今は紫色になっていてビックリだ。
「髪染めたんですか?」
「そうなのよ、松野くん、どう?似合うかしら?」
深いシワをより深くして、ニコリと笑う顔は上品でそれでいて可愛い。
「お似合いですよ、俺ホレちゃうなぁ」
「もう、松野くんは本当に上手いわねぇ」
ふふふっと笑うおばあちゃんと俺。
もうすっかり馴染みになりつつある。
常連さんに名前を覚えて貰えるとそれくらい長くなるんだって、考え深くなる。
この場所で四季を全部見たから、もう1年くらいだろうか。