第1章 始まりは突然に
そして、材料を買ったり講義でヘトヘトになったりポアロがリア充でいっぱいになって死ぬほど忙しかったり……という怒涛の平日を通り抜け、やっと土曜日がやって来た。
今年のバレンタインは火曜日で平日だが、ポアロのシフトもないし、講義もないため、フリーの日なのだ。
「じゃあ、作ろっか〜」
「「は、はい!」」
の家のキッチンに立っているのは、家主のと蘭と園子の2人。2人はチョコの作り方を教わりたい、との家に来たのだ。
作るのはチョコの基本でもあるトリュフ、そしてガナッシュとプラリネ、生チョコである。
「まずは、チョコを刻んで湯煎して〜……」
蘭は教わらなくても出来そうだが、は2人にきちんと教える。
「そしたら、こっちには生クリームを入れて……」
「お姉様、こっちはどうするんですか?」
「あっ、そっちはね、これを入れてー……」
和気あいあいと作り続けること数十分。
「出来たーっ!!」
3人で作ったチョコが完成した。
箱に詰めると、まるで宝石箱のように色鮮やかで綺麗に仕上がった。
「わぁっ、綺麗!」
「ね?色んな色や味で作ってよかったでしょ?」
「本当ですね!これなら喜んでもらえそう!」
は最後の1つを箱に詰めた後、2人に訊いてみた。
「2人は誰にあげるの?」
すると園子が自信満々に言った。
「もちろん、真さんにあげるんですよ!」
「真さん?」
は首を傾げた。
園子が携帯の画像を見せながら教えてくれる。
「この人ですよ!京極真、私のカレシなんです」
「えっ、園子ちゃんのカレシ!?」
は思わず声を上げた。園子にカレシが出来るとは……。何だか先を越された気分で、少し悔しい。
「へぇ〜……でも随分イケメンね、何か侍とか武士って感じ」
「あ、やっぱそう思います?でもそこがまたいいんですよね〜!!」
園子は頬を手で覆いながら頭をぶんぶんと振った。その頬は少し赤い。
「幸せそうだね」
その呟きは自然とこぼれた。好きな人と付き合えることほど幸せなことはない。
はくるりと蘭を振り向き、訊いてみた。
訊いてから失敗した、と思うがもう遅い。
「私は……お父さんにでもあげようかなって思ってます」
無理をしていることが分かりやすいその表情。