第1章 始まりは突然に
「……蘭ちゃん、私言ってみようか?」
誰に、とは敢えて言わない。言わなくても分かるだろうから。
案の定、の言葉の真意を汲み取った蘭は哀しそうに笑い、首をふるふると振った。
「いえ、大丈夫です……。無理言って帰って来てもらうのも何ですし……」
「でも、蘭は渡したいんでしょ?だったら……」
「いいの!」
蘭が強く言った。園子が言いかけた言葉をぐっと飲み込む。
「いいの……アイツ、最近忙しいみたいで連絡ないし……忙しい時にワガママ言うのはアレだから……」
「だからって……」
さらに言い募ろうとする園子の肩に、はそっと手を置いた。
「お姉様……」
園子が縋るような目で見てくるが、は静かに首を横に振った。
「……分かった。蘭ちゃんのやりたいようにやって。私からは連絡はしない。それならいいでしょ?」
がニコッと笑うと、蘭もホッとしたように笑った。
「でも、渡しておいたほうがいいと思うけどね」
最後におどけたふりをして一押しする。蘭はただ困ったように笑うだけだった。