第3章 Valentine
「……安室、さん……」
「さん、何されてるんです?──彼女は僕の連れなんですが……彼女が何か粗相をしましたか?」
安室はにこやかかつ丁寧に言っているが、目が笑っていない。要するにかなり怖い。
「い、いやその……」
男達は途端にしどろもどろになる。安室が「したんですか?」と一押ししてみると、
「す、スイマッセンでしたァ!!」
そう言って車に乗り込んでどこかへ行ってしまった。安室はそんな男達を見届けた後、を振り向いた。
「……遅れて悪かった」
いつもの『降谷零』の口調に戻った彼にホッとしつつ、は小さくため息をついた。
「……正義の味方はヒロインが危機に陥った時にだけ登場するんですか?」
「だから悪かったと──」
少したじろいだ安室に、はくすっと笑った。
「嘘。絶対来てくれると思ってましたよ。だって約束しましたもんね」
えへへ、と笑うに、安室はふいっと顔を背けた。
が目を合わせようと顔を覗いても、安室は決して目を合わせようとはしない。
「もう……。あ、そうだ」
は鞄から箱を1つ出し、安室に手渡した。
「ハッピーバレンタイン!……って、たくさん貰ってますよね」
苦笑いを浮かべるに、安室は何も言わずチョコを受け取った。不意に安室はの頬を両手で包む。
「ふぇ?」
「……こんなに冷たくなって……。何でこんなになるまで待ってたんだ、全く……」
「だって……約束したから……。安室さんのことだから、仕事が忙しいのかなって思って……」
安室がを心配してくれているのが分かる。だからこそ何だか罪悪感があった。
もにょもにょと話すに、何を思ったか安室は彼女の手を取って歩き出す。
「う、わっ!?」
「何時間も待たせた詫びだ。……いい所に連れて行ってあげましょう、お姫様」
ニッコリと安室透の笑顔になる。
は少し驚いたが、すぐに笑って「はいはい」と返した。