第2章 棘のある病(徳川家康/微甘)
今朝は早くから御殿を出て城に出向き、書簡の整理をこなしていた。
あまりに集中し過ぎて、昼餉に来いと政宗さんから声をかけられた今まで時間も忘れていた。
「行くぞ、腹減ったろ?」
「そうですね」
素っ気ない返事をし、政宗さんに続き部屋から出る。
「あいつもすっかり馴染んだな」
政宗さんが笑いながら庭に目を向ける。
つられて視線を向けると、花壇に水遣りをしている迦羅の姿があった。
こっちの存在には気付いてないみたいで、ニコニコしながら色とりどりの花に囲まれている。
能天気に微笑んでいる姿はやっぱり可愛い。
いや、何考えてるんだ…。
すると視線に気付いたのかこちらを向いた。
「あ、政宗!」
よー、と手をあげる政宗さんのもとへ駆け寄ってきた。
俺もいるんだけど。
そんな小言が胸に湧き上がったとき、迦羅はぎこちなく俺に向かって挨拶した。
「こんにちわ、い、いえ…や、す」
数日前、敬語とさん付けをやめるように言ったばかり。
俺にだけ腫れ物にでも触れるように、他人行儀にされることが気に入らなくて、そう言った。
けど、やっぱりまだ慣れていないのが明らかに伝わってくる。
ぎこちない迦羅の言葉に愛らしさと、同時に苛立ちが募る。
「人の名前くらいまともに呼んでよ」
目も合わせず溜め息をつきながら冷たく言うと、迦羅は恐縮したように謝った。
「…お前なー、女の子には優しくしろよ」
政宗さんが呆れたように俺を見る。
「こういう性格なんで」
俺は間違いなくこういう性格なんだ。心の中で溜め息をつく。
そうでなきゃ、好きな子の前で悪態なんかつけない。
政宗さんが迦羅にも昼餉をどうだと誘うが、迦羅は用があると言って断り、行ってしまった。
政宗さんの部屋に着くと、三成と光秀さんが既に待っていた。
「家康様、根をつめると良くありませんよ?」
「年中書物に顔を埋めている誰かさんに言われたくない」
さらっと三成に嫌味を返してみるが、相変わらず話が通じていないみたいだ。
「家康様は誰の話をしているんでしょう?」
ひそひそと三成が光秀さんに聞いている。
面倒くさい、そう思ってそれ以上言うのをやめ、食事を始めた。