第10章 複雑な温度(顕如/甘め)
「迦羅、今宵、夜伽をしろ」
「は?」
その場に居た皆が目を丸くする。
会議が終わるか否かの時だった。
わけもわからず参加しろと言われてやって来たけれど、こうやって馬鹿にするために呼ばれたのだと理解した。
「は?ではない。命じているのだ」
脇息にもたれながら、大層面白そうに言ってくれる。
「ご遠慮します」
私は怯むことなく真っ直ぐに答えた。
「俺の命に背くか」
「お相手でしたら他にいくらでもいるでしょう」
「貴様の乱れた姿が見たいのだ」
あーもう、あの嫌味な笑顔に腹が立つ!
見かねた秀吉さんが助太刀してくれる。
「信長様、お戯れが過ぎます」
「確かに戯れだな」
そう言ってますます嫌味な顔をする。
「直々に指名してやっているのだ、喜べ」
「ですから、丁重にお断りします!」
「本気にするな、冗談だ」
冗談!!?
何で女性に向かってそんな冗談が言えるのよ!
腹立ちが抑えきれず、信長様を睨みつけて広間を出た。
「信長様、あまりからかわれては…」
迦羅を気の毒に思い、秀吉が困ったように言う。
「俺にあのような態度をとる女はそう居るものではない」
「ですが、可哀想です」
しんみりした顔の三成はぽつりと呟く。
「良いではないか。ただの戯れだ」
改める気のない信長に、それ以上意見する者は居なかった。
それから後も、何かあるごとに信長は迦羅をからかっては、その反応を愉しんでいた。自分に噛み付く珍しい女に対する純粋な悪ー。
いつしか迦羅の中でドロドロと溢れ出した怒りには、一切気付いていなかった。