第83章 眩暈 〜memai〜(上杉謙信/微甘)
「私は何処へも行きません。謙信様の側を離れる訳がないじゃないですか」
真っ直ぐに見つめる迦羅の目が俺に訴えかける。
大丈夫、安心して、と。
こんなにも嫉妬に狂い、内なる狂気を呼び覚ますのは…やはり迦羅の言う通りに何処かで信用していないと言うことなのか?
…馬鹿な。
「ごめんなさい」
「何故お前が謝る」
「謙信様に、こんな顔をさせているのは…私のせいなんですよね」
柔い迦羅の手が俺の頬に触れ、そして迦羅の顔には悲しみの色が浮かんでいる。
…違う。お前のせいではない。
俺はお前のせいにして、どうしようもない狂気を振るっているだけなのだ。
「お前のほうこそ、そんな顔をするな…」
胸の奥がチクリと痛む。
俺はただお前を愛しているだけだ。
ガチャリー
錠を外してやるが迦羅は出て来ようとしない。
「どうした?」
「だって…私がどのくらい謙信様を好きか、証明出来てないじゃないですか」
こんな時に何を言っている。
確かにお前を此処へ入れたのは、お前の心を試すためであったが、そんなもの初めから必要はなかった。
お前がどれ程俺を好きだと言おうとも
俺はそれ以上にお前を愛しているのだからー。
待つのが焦ったくなり、俺が中へ踏み入れる。
まだ悔しそうな顔をする迦羅を思い切り抱きしめれば、昂っていた可笑しな狂気が、鞘に収められるように静まっていく。
「こんな俺を許してくれるか、迦羅」
「いいえ許しません」
「…何故だ?」
「ほんの数刻でも…私を手離したから…」
「どうすれば許す?」
「…ん」
胸元で顔を上げ、僅かに唇を尖らせている。
口付けをせがんでいるのか?
本当に…お前という女は…。
「んんっ…」
お前にならばいくらでもくれてやろう。
口付けでも、身も心でも、何もかも。
だからお前は俺の鞘となれ…。お前が居なければ、俺はまたつまらん男に戻ってしまう。
口付けの最中、薄っすらと目を開けてみる。
目の前で伏せられた長い睫毛と薄紅の目元。
漂う甘い香りに…
眩むような心地に包まれたー。
さて…あの男、どうしてくれようか…。
完