第74章 月花の誘惑(石田三成/甘め)
着物が触れる距離で隣り合う私と迦羅様。
チラリと伺えば、その横顔がほんのりと桃色に染まって、可憐な花のような甘やかな香りが届いて来るようです。
この距離を、少なからず意識しているのでしょう。
「迦羅様は私が嫌いですか」
「…え」
唐突な質問に顔を上げた貴女とまた目が合いました。
ですが、今度は目を逸らさないのですね。
「嫌いなわけないじゃない」
「では好きなのですか?」
「それは…」
「私は迦羅様が好きですよ」
「…っ!?」
手を伸ばせば、すぐそこに貴女の愛らしい顔があり、その頬に触れられる。
先程よりも更に濃くなった桃色の肌を掌で包めば、一段と潤んだ目が胸を疼かせて仕方ないのです。
「言ったはずですよ?そんなに見つめると、誘っているようだと」
「………」
「聞き分けのない人なんですね」
「あ、あのっ…!」
「迦羅様が家康様を好いていることは知っていますが、今の様子を見ていると、私にも入り込む隙間があるようですね」
目の前の貴女がどんなに愛しいか。
私は家康様を尊敬していますが、それとこれとは別の話。
未だに目を逸らさない貴女が堪らなく私の澱んだ心を誘って…それに手招かれるまま、初めてその柔らかな唇を奪ったー。
「…ん」
ようやく目を閉じましたね。
さぁ、貴女はこれからどうするのです?
まだ家康様を想いますか?
…それとも、私の誘惑に…応えてくれますか?
完