第7章 天使の憂鬱(石田三成/微甘)
夜も更けてきた頃、三成は信長から与えられた書物を一気に読み終えていた。
「こんな時間になってしまいましたね」
本をパタンと閉じて眼鏡を外すと、少し疲れがやってきました。
まだ他に読みたいものはありますが…
ふと頭の中に、昼間お逢いした迦羅様の顔が浮かびます。
ーちゃんと休憩してね
結局いつものように休憩もせずに没頭してしまいました。迦羅様に心配をかけるのは良くありませんね。
今日はもう終わりにしましょう。
ー翌日。
午前の会議のため広間に向かっていると、廊下の一角で迦羅様と家康様が何やら話しているところに出くわしました。
「あんたってほんと、使えない」
迦羅様に向かって吐き捨てるよう台詞を残し、家康様が広間に入っていきます。
何があったのかわかりませんが、悲しげに俯く迦羅様の姿に、胸がチクリと痛みました。
「どうかされたのですか?」
「ううん、何でもないよ」
少しばかり無理をしているのでしょう…
いつもとは違う、温かさのない笑顔で迦羅様は答え、走り去っていきました。
何だかモヤモヤするな…
しかし先ずは会議だと自分に言い聞かせて広間に向かいました。
会議が終わり、残っている書簡の整理を手伝ってほしいと言われ、秀吉さんの御殿へやってきました。
書簡を広げますが、今日は、何故かそこにある文字が頭に入ってきません。
「おい三成、どうかしたか?」
さぞかし不思議そうに秀吉さんが私の顔を覗き込みます。
「先程迦羅様の悲しげな顔を見てからというもの、モヤモヤしたものが引っかかるのです」
「それなら、また迦羅の笑顔を見れば治るんじゃないか?」
そうか、私は迦羅様が笑っていないことが嫌なのですね。
迦羅様の優しい笑顔がなければ、私の心はこんなにも痛む。
きっと秀吉さんの言う通りなのでしょう。
もっと迦羅様の笑顔を見ていたい。
モヤモヤの正体が明らかになり、少しだけ楽になりました。
そんな三成の様子から秀吉は察する。
「…成程ね。やっぱりこいつも、男だったか」
小さく呟くと、安心したように目を細め、真面目に書簡に向かい始めた三成の姿を見ていた。