第72章 織姫の願い(第53章続編SS/三成)
身分の違う男女が恋に落ちて
そして其の身分の差を理由に決して結ばれることは無かった。
ただ愛しい想いを胸に秘めながら
互いに別の相手と婚姻を結ぶ。
思い出すあの日の想い出だけが
幸せだったことを憶えている——。
「うぅっ……」
「悲しいお話だったのですね」
隣で肩を震わせる迦羅様に何とも申し訳無いことをしました。
「私も初めて読んだもので、こんなに悲しいお話だとは思いませんでした」
知っていたのなら、読んでは差し上げなかったのですが…。
「…ううん、ありがとう」
「迦羅様、涙を拭いて下さい」
「恋って、色々あるんだね」
「ええ。そのようですね」
くっと涙を拭う迦羅様の目元は赤く
…何と純情な人なのでしょうか。
物語と言えどもこんなにも感情を読み取って
綺麗な涙を流せるなんて。
膝の上に開いた其の書物をパラパラと捲り
先程迦羅様が見ていた項を開きました。
「このお二人、私たちに似ていますよ」
「え…?」
「ほら、こんなに寄り添って、とても幸せそうじゃありませんか」
「み…三成くん」
私はいまいち気の利いたことは言えません。
ですが、本当にそう思うのです。
「私たちにはきっと別の結末がありますよ」
「どんな…?」
「そうですね。二人の想いが永遠に通じ合う所は同じですが、別れること無く、ずっと一緒に居られるでしょう」
私は知っているのですよ?
私と迦羅様の想いが通じていることを。
〝三成くんへの恋が、いつか成就しますように〟
確かにそう書いてありましたからね。
あ、すみません。覗き見てしまったのです。
「あの、三成くん。其れは…そのまんま受け取っていいのかな?」
「他に受け取り方がありますか?」
「ううん、無いと思う」
にっこりと微笑んだ迦羅様。
やはり涙よりも笑顔のほうが似合います。
「私は、迦羅様が大好きなのです」
「私だって三成くんが大好きだよ」
躊躇い無く好きだと返してくれる迦羅様。
私たちには身分も何も関係無いのです。
お互いの中に生まれたこの気持ちを
ずっと大切にして行きましょう。
膝の上で繋ぐ温かな手。
「三成くんあったかいね」
其の笑顔はもう、私のものですね。
完